2014年6月23日

IBM事件とまだ活用できる「みなし配当+譲渡損」スキーム

 国税当局が抜いた伝家の宝刀「行為計算否認規定(法人税法132条)」は、IBM事件では東京地裁に認められませんでした(平成26年5月9日判決)。

 事案はそれほど複雑なものではありません。日本IBMの100%米国親会社は、平成14年4月に日本子会社(日本IBMから見ると兄弟会社)である有限会社に日本IBMの株式全部を1兆9,500億円で譲渡します。この有限会社は、米国親会社が日本IBM株式譲渡の2か月前に会計事務所から買ってきた会社であり、税務当局はペーパーカンパニーと認定していますが、IBMは中間持株会社と主張しています。株式購入資金の約7%は現金で支払っていますが、残りの93%は未払で売主からの借金に振り替えています。

 そしてその後この有限会社は、日本IBMに3回に渡り(平成14年12月、平成15年12月、平成17年12月)、日本IBMの発行済株式の約22%を約4,298億円で譲渡します(日本IBMから見ると自己株式の取得)。有限会社は、米国親会社から買ってきた単価とまったく同じ単価で、3回の株式譲渡をしていますので会計上の譲渡損益はゼロですが、税務上は約3,995億円の有価証券譲渡損失とみなし配当が両建てで計上されたうえで、みなし配当は益金不算入ですから結果的に約3,995億の税務上の損金が発生しています。

 この節税スキームは、その後の平成22年度税制改正で「100%グループ内法人のみなし配当発生時の譲渡損益非計上(法法61の2⑯)」として封じられることになりますが、当時これを禁止する明文規定はなく、国税当局はやむなく伝家の宝刀で次の3つの評価事実を根拠に否認しました。

 ①有限会社をあえて中間持株会社としたことに正当な理由や事業目的がない。
 ②有限会社が米国親会社から受けた融資は独立当事者間取引とは異なる。
 ③一連の行為に租税回避の意図が認められる。

 これに対して東京地裁は、「持株会社として固有の存在意義がないとまでは認めがたい」など租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないとまでは言い切れないとして、納税者勝訴としています。個人的には、節税効果と比較すると少々事業目的が弱い気がしますが、法法132条の適用は限定的であるということなのでしょう。

 さて前述の通り100%グループ内での「みなし配当+譲渡損」の両建て計上スキームは平成22年税制改正で封じられていますが、100%グループ内でない場合には、同改正で「自己株式譲渡目的で取得した株式の自己株式譲渡時のみなし配当益金算入(法法23③)」として封じられただけであり、すべてのみなし配当発生事由が対象とされたわけではありません。具体的には、例えば99%支配の子会社から、資本剰余金の額の減少を伴う剰余金の配当を受けた場合や解散による残余財産の分配を受けた場合には、「みなし配当+譲渡損」が両建てで計上されることとなります。実行にあたってはくれぐれも「事業目的」にご留意下さい。

2014年6月23日 (担当:平野和俊)

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