2012年2月 9日

相続税法改正による課税強化は早くても平成27年1月から

 一昨年の平成23年度の税制改正大綱では、相続税の増税改正案が示され、課税対象者の激増が確実となることがわかり、昨年の今頃は、その対応に右往左往していました。その記憶も新しい現在、あの相続税改正法案はどうなってしまったのでしょうか。

 実は、平成23年度税制改正法案のうち相続税等に係る資産課税項目は、平成23年11月24日、衆議院における法案修正の過程ですべて削除されました。また、平成24年度の税制改正大綱にも削除された改正項目は再掲されていません。

 予定されていた相続税の改正案はこのまま廃案になるのでしょうか。それとも、近い将来再提出され施行されるのでしょうか。

 先の改正案の行方が気になっていたところ、平成24年1月初旬に「社会保障・税一体改革素案」(以下、「一体素案」といいます。)が公表され、相続税の改正については、平成27年1月から「削除された案と同内容」による施行が予定されていることが判明しました。

 平成23年1月6日にとりまとめられた一体素案は、社会保障の安定財源確保と財政健全化の同時達成を目指す「改革の構想」をとりまとめたもので、その内容は社会保障改革と税制抜本改革の二つからできています。その最大の眼目は、消費税率10%への引き上げという税制改革で、社会保障改革の記述は、医療・介護・年金などの各制度が抱える課題に対する従前からの改革案をとりまとめたものになっています。

 税制抜本改革部分の決定プロセスを見ると、政府税調及び民主党税調において骨子や案をとりまとめ、さらに、関係5大臣会合でのとりまとめを経て、政府・与党社会保障改革本部で決定され、最終的には閣議報告されています。この決定プロセスは、通常の税制改正大綱の決定と遜色のないもので、一体素案を読めば、政府与党のこれからの税制改正の予定がかなりの確実度でわかります。その記述は、広範な税目に係る今後の制度変更について多様かつ豊富になされており、第二の税制改正大綱と言ってもいいくらいの内容を持ちます。

 この中の相続税贈与税の改革案は、廃案となった改正項目がそのままの形で示されて復活しており、また、税制抜本改革のスケジュールを見ると、法案可決後の施行予定時期は平成27年1月と明記されています(改正予定内容については下記図表参照)。

主な項目 ~H26年12月 H27年1月~
相続税の基礎控除 5,000万円+1,000万円×法定相続人の数 3,000万円+600万円×法定相続人の数
相続税の税率構造 6段階・最高税率50% 8段階・最高税率55%
暦年課税贈与の税率構造 6段階・最高税率50% 8段階・最高税率55%
直系尊属からの贈与の優遇
相続時精算課税制度の贈与者・受贈者 「65歳以上の者」から「20歳以上の推定相続人」への贈与 「60歳以上の者」から「20歳以上の推定相続人および孫」への贈与

 もちろん上記のものは素案でこれから野党との協議にはいるわけですから、このままの形で成立するかどうかはわかりません。

 ただ、順調に進んでも「平成27年1月までは相続税の増税はない」ということが明らかになったことは、相続税対策を考えている人にとって非常にありがたいことです。少なくともあと3年間は既存の相続対策は有効ですから特に変更を加える必要はありませんし、対策を検討し実行するのに十分な時間もあるためいたずらに焦る必要もありません。将来の相続税制度の全体像も十分わかっているため、この3年間はこの対策で、その後は別の対策で、という長期的な検討も可能です。

 一体素案について、政府与党は今年の3月までの国会への法案提出を計画しています。審議の結果、素の案がどのような具体的な形になるのか、我国の税制に大きな影響があるので注目です。

2012年2月9日 (担当:後 宏治)

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