2009年6月30日

譲渡禁止特約付債権の自己信託設定は可能か?

自己信託の設定は、法律上の譲渡概念に該当せず、原則として譲渡禁止特約付債権の自己信託設定は可能と考えます。ただし、一般的に譲渡禁止特約においては譲渡のみならず、質入、担保権の設定、その他の処分行為も禁止されているところ、自己信託の設定は処分行為に他ならず、債務者の承諾を得る必要があると考えます。

 また、譲渡禁止特約において、処分行為全般が禁止されていない場合でも、新しい自己信託制度を考慮せずに契約締結されている可能性もあり、契約文言上の明確な意思を確認できない限り、譲渡禁止特約を付した当初における当事者の意思解釈をする必要があると考えます。そこで、譲渡禁止特約を要求した債務者の意思を解釈すると、債権者名義が変更されず、かつ、相殺期待が損なわれないことにあったと考えます。自己信託において前者は問題ありませんが、後者については、債権が自己信託されたことを知った債務者は、以後固有財産に対する債権を取得しても相殺できなくなります(信託法22①)。したがって、このような場合には、相殺期待を損なうことがないように自己信託を設定し、受託者が相殺承認する必要があると考えます(信託法22②)※1

もっとも、このように相殺期待さえ治癒しておけば、譲渡禁止特約付債権の自己信託が認められてしかるべきものか、議論のあるところでしょう。今後の更なる議論および実例の集積が期待されます。


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※1 受託者の承認は、原則として利益相反行為に該当するため、信託行為に相殺することを許容する旨を定める等、利益相反行為禁止の例外規定の要件を満たす必要があります(信託法31)。


2009年6月30日 (担当 桑田 洋崇)


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