2009年4月27日

元本受益権を生前贈与する相続税節税スキームの検証

 収益受益者と元本受益者が異なる信託(以下「受益権が複層化された信託」といいます。)について、収益受益権の評価は将来収益の現在価値合計額とされ、元本受益権の評価は信託財産評価額から収益受益権評価額を控除した金額とされています(評基通202)。したがって、受益権が複層化された信託の信託財産が高収益資産の場合には、元本受益権の評価は低くなります。ところがこの元本受益権は信託期間の経過に伴って価値が増加していき、信託期間満了時には改めて課税関係が発生することなく、元本受益者は信託財産の分配を受けることができます。そこで、この低い評価の元本受益権を信託設定時に子供等に生前贈与しておく対策が分離型信託受益権などと称され、相続税節税スキームとして喧伝されてきました。

 この対策でまず気にかかることは、受益権が複層化された信託が受益者連続型信託(相法9の3)に該当して、収益受益権の評価をその信託財産の全部の評価とされないかということです。例えば、委託者である父親を当初収益受益者、長男を元本受益者とします。父親死亡時には母親が収益受益者となり、母親の死亡により信託は終了して元本受益者である長男が信託財産自体を受けるものとします。

このような信託は信託法第91条の信託ですから、当然に受益者連続型信託に該当します。ところが、同じ事案において母親を収益受益者とせず、父親の死亡を信託の終了事由として、元本受益者である長男が信託財産自体を受ける場合には、信託法第91条の信託には該当しません。

この場合でも、信託法第91条の信託に類する信託(相令1条の8三)として受益者連続型信託に該当する可能性もありますが、相続税基本通達9-13及び同通達に係る国税庁情報を参照する限り受益者連続型信託には該当せず、財産評価基本通達202により評価すべきものと考えられます。

 また、受益権が複層化された信託については、信託期間中の所得に係る法人税または所得税の取扱いがはっきりしません。

 このスキーム自体の効果を否定するわけではありませんが、慎重な組成が必要といえるでしょう。

2009年4月27日 (担当 平野 和俊)

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