2008年9月30日

明細書の添付忘れですべてが水の泡?~信託損失の取り込み規制~

平成17年度税制改正により、組合事業から生ずる損失を利用して節税を図る動き※1に対処するため、組合損失の損金算入制限の規定が設けられました(UAPレポート2004年12月21日号参照)が、平成19年度税制改正により受益者等課税信託から生ずる損失についても同規定の対象に含まれることになりました。

信託損失額の損金算入制限について話を進めていきますと、信託損失額は、調整信託金額を限度として損金に算入され(UAPレポート2008年8月28日参照)、損金不算入となった信託損失額は損失超過合計額として申告書への明細書(別表九(四))の添付を条件に、翌事業年度以後に生じた信託利益額を限度として損金の額に算入することができます。

ここで気をつけたいのが、明細書の添付は実際に損失超過合計額が生じてからでは遅いということです。つまり、受益者等課税信託の受益者等は、ファンドトラストや特定金銭信託などを除き、原則的に明細書の添付が義務付けられており、信託設定第1期から信託に係る損益額、調整信託金額等についてこの明細書で計算して明らかにしておく必要があります。

もし、この明細書の添付を失念した場合、翌事業年度以後に生じた利益を限度とした損金算入規定の適用がなされないことから、①損金不算入として別表五(一)に留保されている金額が最終的に切り捨てられるのではないか、②切り捨てられないにしても損金算入の時期が最終時期まで大幅に制限されてしまうのではないか、というリスクが考えられます。

この点について以下で、受益者の責任が信託財産に限定されている通常の受益者等課税信託において、受益者等が計上すべき仕訳とともに確認していきます。

1)法人Xは、自己の所有する財産1,000を信託し、債務900を信託財産責任負担債務とする信託契約を締結した。
図1

2)X1年度に信託損失200が発生
図2

3)X2年度に信託利益額50が発生
図3

申告書に明細書の添付がある場合、X1年度の信託損失超過額について信託利益額50を 限度として、損金に算入することができますが、明細書の添付がない場合は損金に算入する ことができません。

4)X3年度に信託財産を750で売却し、信託を終了
図4

明細書の添付がある場合、X1年度の信託損失超過合計額について売却益の範囲内で損金算入することができます。
一方、明細書の添付がない場合については、条文上信託損失超過合計額の損金算入は明細書の添付が条件となっていますので、過年度に生じた信託損失額のうち100については、損金計上ができず切り捨てられるようにみえます。
しかし、実務上は、信託の受益者でなくなった場合には、これまで損金計上が留保されていた過年度に生じた信託損失金額に相当する額は、損金算入されるという考え方が有力です。

図5

結果として、明細書の添付がなかった場合についても最終的には明細書の添付があった場合と同様に取り込み制限されていた信託損失額が損金算入されることとなります。 信託損失の取り込み規制が設けられた趣旨は、損金の計上時期の制限であって、損金算入自体を否認するものではないことを考えますと、上記実務上の取扱いは妥当性があると考えられます。 しかし、租税措置法が政策的に定められている法律である点を考えますと、明文の規定がない以上は、損金算入が認められない上記①のリスクを考える必要がありそうです。 また、信託の受益者でなくなるまでは信託利益がでても損金算入ができず、上記②のリスクは排除することはできませんので、信託の受益者等は信託設定の段階から明細書の添付を確実に実行したいところです。

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※1代表的には航空機や映画フィルムのリースが挙げられます。購入初期に多額の減価償却費や借入金利息を計上することにより損失を投資家に配賦し、課税の繰延べを図ろうとするスキームが一般的です。

2008年9月30日(担当 吉田 暁弘)

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