2008年4月30日

特定目的会社等における外国税額控除の取扱い変更について ~平成20年度税制改正より~

 平成20年度税制改正では、「特定目的会社に係る課税の特例等について、特定目的会社等が納付した外国法人税の額は、現行の外国税額控除に代えて、特定目的会社の利益の配当等に対する所得税の額から控除すること」とし、「その控除限度額は、当該所得税の額とする。」(平成20年度税制改正の要綱:平成20年1月11日閣議決定)となりました。この改正は「平成20年4月1日以後に開始する事業年度に係る利益の配当等に対する所得税の額について適用」されます。

現行の外国税額控除制度では、租税特別措置法第67条の14に規定しているように外国税額控除の限度額計算上、全世界所得金額、法人税額を支払配当損金算入前の所得金額を基礎として算定しております。これは導管性を特徴とする特定目的会社が、ビークル段階において二重課税を排除しようとすると、このような方法で計算せざるを得ないからです(図1参照)。

図1

しかしながら、低税率国の投資家が特定目的会社を間に通して海外投資を行った場合、本来調整すべき二重課税の額を超えるような過大な還付が生じることもあったようです。このような不都合を是正するために、現行の外国税額控除制度から、外国法人税を源泉所得税の範囲で調整する制度へと変更されました。以下、現段階で想定し得る新しい制度について、二重課税を中心に考察します。

 現状国会に提出されている法律案によりますと、「特定目的会社が納付した法人税法第69条第1項に規定する外国法人税の額は、政令で定めるところにより、当該特定目的会社の利益の配当の額に係る所得税の額を限度として当該所得税の額から控除する」(改正案措法67条の14④)となっております。さらに同条次項で、源泉徴収の計算の基礎となる「配当等の金額」については「前項の規定により控除する金額を加算した金額とする」としてあります。

 実は変更後に予想される制度内容によく似た制度は、集団投資信託の制度の中に既に存在しております。所得税法第176条第3項に「内国法人がその引き受けた集団投資信託の信託財産について納付した所得税(外国の法令により課される所得税に相当する税で政令で定めるものを含む。)の額は、政令で定めるところにより、当該集団投資信託の収益の分配に係る所得税の額から控除する。」とあります。この所得税に相当する外国税については、所得税法施行令第300条に「信託財産につき課される外国所得税のうち、当該外国所得税の課せられた収益を分配するとしたならば当該収益の分配につき所得税を徴収されるべきこととなるものに対応する部分とする。」と規定しております。さらに同法第176条第4項で、「前項の規定により控除すべき所得税の額は、当該集団投資信託の収益の分配の額の計算上、当該収益の分配の額に加算する。」と規定しております。これらを図に表しますと次のようになります。

図2

この集団投資信託に適用される制度が、そのまま特定目的会社にも採用されるかどうかは政令等の公布を待たなければ分かりませんが、基本的には同様の仕組みになるものと思われます。

この仕組みにより外国所得税は、源泉所得税の範囲内ではありますが、源泉所得税から控除されるため、二重課税が排除されます。そして問題となっていた過大な還付が生じる恐れはありません。しかし、この制度においても総合課税される居住者若しくは内国法人にとっては、日本の源泉徴収税率を越える源泉徴収税率の国外所得がある場合には、完全に二重課税が排除されるとは言えません(源泉分離課税の場合は源泉徴収により課税関係が完結するため問題が生じません)。但し、諸外国と日本との間では日本の源泉徴収税率を下回る制限税率を定めた租税条約が結ばれていることが多いため、現段階における実害は少ないものと考えます。

今後の動向にぜひ注目したいです。

2008年4月30日(担当:藤田 賢)

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