2007年1月25日

リース会計基準の変更が不動産実務に与える影響

平成18年12月に企業会計基準機構から「リース取引に関する会計基準(案)」が公表され、リース取引に係る会計処理の取扱いが変更されることが明らかになりました。

さらに、平成19年度の税制改正で、税務においても所有権移転外ファイナンス・リース取引につき原則として会計処理と一致する取扱いになることが明らかになりました。すなわち、借り手のリースの簡便性を維持するために、変更後リース会計基準と同一の税制上の処理が認められます。今後、リース取引に関する税務と会計の処理は原則として一致することになります。

ただし、税務が会計と全く一致するかどうか、既存の税務上の取扱いがどのように変更するかなどの詳細は明らかになっておらず、今後の法令・通達等の改正を待津必要があります。

(1)変更点

今回の改正で最大の変更点は、所有権移転外ファイナンス・リースについて現在例外的に認められている賃貸借処理が廃止される点です。すなわち、ファイナンス・リース取引に該当するリース取引はすべて売買処理が強制されることになります。

(2)ファイナンス・リース取引の判定

新基準において、【A】オペレーティング・リース取引かファイナンス・リース取引かの判断基準、及び【B】所有権移転ファイナンス・リースか所有権移転外ファイナンス・リース取引かの判断基準は実質的には変更ありません。

具体的には、【A】のリース区分の判断は、・解約不能のリース取引かつ・フルペイアウトのリース取引に該当すれば、ファイナンス・リース取引として区分され、売買処理を行うことになります。・のフルペイアウトの判断は、「現在価値基準(リース料総額の現在価値>見積現金購入価額×90%)」または「経済的耐用年数基準(解約不能のリース期間>経済的耐用年数×75%)」により行われます。

【B】の所有権移転区分の判断は、3つの類型に該当するかどうかで行います。すなわち、・所有権移転条項のある場合、・借手に割安購入選択権がありその行使が確実に予想される場合、・特別仕様のリース物件の場合のいずれかに該当する場合に、所有権移転ファイナンス・リース取引に該当するものとし、それ以外のファイナンス・リース取引は、所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当するものとされています。

なお、不動産(土地・建物等)のリース取引及びセール・アンド・リースバック取引についても、上記と同様の判断と処理を行うことになります。

(3)不動産実務への影響

さて、上記の取扱いの変更が、不動産実務に与える影響はどのようなものでしょうか。結論としては、大きな影響はないものと判断されます。その理由は以下のとおりです。

①今度の改正により影響を受ける不動産リース取引は、従来の所有権移転外ファイナンス・リース取引として賃貸借処理を行う取引で、注記が必要とされるもの限定されます。ところが、現行実務において、不動産の賃貸借取引のほとんどはオペレーティング・リース取引に該当し、所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当するものはあまり多くないと考えられます。
②不動産流動化・証券化取引においては、セール・アンド・リースバック取引により保有不動産をオフバランス化するためには、会計上・税務上ともに当該取引が賃貸借取引として取り扱われなければなりません。したがって、セール・アンド・リースバック取引が賃貸借取引として取り扱われるようプランニング段階から組成することが一般であり、今回の改正によって影響を受けないケースがほとんどでしょう。
③中小企業の場合は、例外として賃貸借処理が継続できる取扱いが導入される予定であり、影響を受けるのは上場企業等の大企業に限定されます。

(4)留意点

今回の改正では、不動産リース取引に係る現在価値基準の算定の方法が明確化されています。

すなわち、土地と建物等を一括した不動産リース取引については、土地が無限の経済的耐用年数を有し建物等と異なる性格を有することを踏まえ、リース料総額を合理的な方法で土地に係る部分と建物等に係る部分に分割した上で、フルペイアウト「現在価値基準」の判定を行うこととされています。

リース料総額を土地に係る部分と建物等に係る部分に合理的に分割する方法としては以下のもののうち最も実態に合った方法を採用します。

①賃貸借契約書等で、適切な土地の賃借料が明示されている場合には、全体のリース料総額から土地の賃借料を差し引いた額を、建物等のリース料総額とする。
②全体のリース料総額から土地の見積賃借料(近隣水準など)を差し引いた額を、建物等のリース料総額とみなす。
③全体のリース料総額から土地の時価に借手の追加借入利子率を乗じた額を差し引いた額を、建物等のリース料総額とみなす(借手の場合)。
④土地の借地部分の時価と建物等の時価を見積り、両者の比で全体のリース料総額を両者に配分する。

なお、一般に土地の賃借料相当の金額の算出は容易ではないため、土地の賃借料が容易に判別可能でない場合は、両者を区分せずに総額で現在価値基準の判定を行うことをできるものとされていますが、セール・アンド・リースバック取引は原則どおり両者を区分して判定することが求められています。

セール・アンド・リースバック取引でオフバランス化を計画する場合には、賃料水準の設定につき、今まで以上により慎重な配慮が必要となるでしょう。

2007年1月25日(担当:後 宏治)

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