2006年4月28日

支配権逆転のオセロゲーム~相続人等への株式売渡し請求制度

相続人等への株式売渡し請求制度とは、譲渡制限株式につき、相続などの一般承継により株式を取得した者に対し、会社からその株式を会社に売り渡すことを請求する制度です。この場合、会社は、売渡し請求ができる旨を定款に予め定めておかなければなりません。(参考:UAPレポート『新会社法「相続人等に対する売渡しの請求」と事業承継税制』)

この制度を使えば、事業承継者の支配権を確実にすることができるため、一般的には、会社法施行後速やかに定款変更を行うことが推奨されています。

しかし、この定款規定を安易に定めると、支配株主と少数株主とが逆転する、「オセロゲーム」現象が生ずることがあるため、十分な注意が必要です。

具体的なケースで見てみます。兄弟で会社を創業し、兄が支配株主(80%)、弟が少数株主(20%)、取締役は兄とその子供一人および弟とその子供一人の合計4人である場合で、兄に相続が発生したケースを考えてみます。弟グループが、死亡した兄の相続人に株式売渡し請求をしたときには、長男の相続人は売りたくなくても会社に株式全部を売却しなければなりません。売却後の自己株式には議決権がありませんから、会社の支配権は次男が100%もつこととなります。

このように、支配株主グループに相続が生じた場合に、株主総会において、少数株主グループから会社に対する売渡し請求決議がはかられると、支配株主グループには確実な対抗手段がなく、否応なしに支配権を手放さなくてはならない可能性があります。なぜならば、株主総会において相続人等に株式の売渡し請求の決定決議をするときには、その売渡し請求を受ける相続人は特別利害関係人に該当し、議決権を行使することができないからです。その結果、少数株主グループだけの議決権が行使され、可決されてしまいます。可決されてしまった後では、現在のところ支配株主グループには総会決議をくつがえす確実な対抗手段がないといわれています。

それでは、支配権逆転を事前に防止するための方法にはどのようなものがあるのでしょうか?現時点では以下のものが考えられます。

(1)取締役会を支配株主グループで支配する
会社が相続人に売渡し請求をしようとするときには、株主総会で株式の数および株式所有者を特別決議で定める必要があります。一定の少数株主には、株主総会招集請求権、議題提案権、議案提出権があるので、総会決議を防止することは非常に困難です。

ここで注目したいのは、株主総会決議の後でも、会社はいつでも売渡し請求を撤回することができることです。会社は任意に撤回し、売渡し請求を取りやめることが可能です。

撤回を実行するのは、取締役または取締役会です。したがって、たとえ株主総会で売渡し議案が可決しても、取締役(取締役会)の過半数以上が身内で構成されているなど、取締役(取締役会)の意思決定を支配しておけば、逆転現象を防止することができます。

(2)少数株主に種類株式を割り当てる
会社法施行に伴う定款変更時に、少数株主が保有する株式を議決権制限株式にしておけば、そもそも総会決議がなされることはありません。

(3)株主間契約を利用する
支配株主と少数株主との間で、売渡し請求決議に関する議決権を少数株主が行使しない旨の契約(議決権拘束契約)を締結したうえで、相当な金額を損害賠償額として予定しておきます。ただ、株主間契約は、会社に対する対抗力はないため、少数株主がこの契約に違反して議決権を行使しても、その効力には影響がなく、その後は(旧)支配株主が(旧)少数株主に対して債務不履行に基づく損害賠償の請求を行うしかありません。効果は絶対ではありませんが、ある程度の牽制にはなると考えられます。

防止策についても、現時点では法的な確実性が担保されているわけではありません。したがって、相続人等への株式売渡し請求規定の定款記載は、会社の実態によって、リスクの大きなものになる場合もあります。事前に慎重な検討が必要です。

2006年4月28日(担当:後 宏治)

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