2006年2月24日

有限責任事業組合(日本版LLP)の会計・税務

~出資割合と損益分配割合が異なる場合~

有限責任事業組合(LLP)法では、出資割合と異なる損益分配割合の採用が可能であることが明文化されています。組合員AとBが同額の出資をして事業を行い、その事業から生じた損益を労務の提供度合に応じて3:1で分ける…ということが可能です。これにより有能な人材とスポンサーのマッチングを容易にする等の効果が期待できますが、会計・税務面に着目すると未だに明らかでない点がいくつか見受けられます。

まず、LLPの損益を各組合員の財務諸表に取り込む方法として総額方式を採用した場合の会計処理が挙げられます。総額方式はLLPのB/S・P/L項目のすべてを一定割合で各組合員の財務諸表に配分する方式で、他の方式と比べると、税務上の特典に関する制限がない等の利点があります。出資割合と損益分配割合が同じ場合には、B/S・P/L項目ともその割合で配分すればよいのですが、両者の割合が異なる場合には、例えばB/S項目は出資割合で、P/L項目は損益分配割合で配分すると貸借が合わなくなってしまいます。

組合員AとBが400ずつ出資し、事業から生じた利益800 (収益1300-費用500)を3:1(A:B=600:200)で分けるという例を考えてみましょう。

<LLP>

資産2,000/負債400
  /出資金800
費用500/収益1,300

<組合員Aへの配分額>

資産1,000/負債200
差額200/出資金400
費用375/収益975

P/L項目は3:1で分けるのが自然と思われますので、B/S項目の分け方が、上記の差額200を解消するポイントとなります。現在提案されているいくつかの配分法のうち、純資産割合を用いるのが今のところ最も合理的と考えられます。これは、(Aの出資額400+Aに配分される利益600)÷(ABの出資額合計800+LLPの利益800)=0.625(純資産割合)によりB/S項目を配分する方法です。

<組合員Aへの配分額(B/S項目を純資産割合で配分)>

資産1,250/負債250
差額200/出資金400
費用375/収益975

この方法ですと先の差額200は解消されます。ただし、純資産割合は毎期計算し直さなければなりませんので、計算が煩雑であるのは否めません。

なお、改正法人税基本通達14-1-2では、出資割合と損益分配割合が異なる場合の合理的な計算方法として、1.損益を出資割合により配分し、2.「損益分配割合で配分した損益-出資割合で配分した損益」を加算・減算するという方法が例示されています。これは、B/S・P/L項目とも出資割合で配分し、本来あるべき損益との差額は別表で調整する…というように解釈できますが、この場合、分配損益とは異なる金額を会計上の損益として計上することになりますので、分配損益のうちに会計上損益計上されない部分が生じ、会計処理として問題があると思われます。

LLPの組合員側の会計処理については、平成18年1月27日に企業会計基準委員会より実務上の取扱い(案)が公表されましたが、この問題について触れている箇所は少なく、最終的にどのような処理方法に落ち着くのか、今後の動向が注目されます。

税務面では、出資割合と損益分配割合の差異が、贈与課税や寄付金課税に繋がるのではないかという懸念があります。LLP法上、出資割合と損益分配割合が異なる場合には、書面にその損益分配割合を定めた理由や算定方法等を記載し、組合員全員が記名押印しなければならないこととなっており、これが将来の税務調査における疎明資料をも兼ねると考えられます。

改正法人税基本通達14-1-2では、分配割合は出資状況や事業への寄与状況に照らして経済的合理性を有するものでなければならないとしていますが、その合理性に関してはまだ事例の蓄積が乏しく、現時点では課税リスクが読めない状況です。このためにインセンティブとしての思い切った損益分配割合の採用が阻害されるという事態も想定されるため、法令や通達による合理的な損益分配割合の決め方の例示など、課税庁側の早期の手当てが期待されるところです。

2006年2月24日(担当:小林 望 )

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